『キングダム』音で恐怖を倍増させる韓国ゾンビの新境地

血を吐くような咳音、骨が軋む不気味な関節音、そして数百の足音が一斉に地面を叩く轟音。『キングダム』を見終わった後も、これらの音が耳から離れなかった。


韓国のゾンビドラマは数多くあるが、『キングダム』ほど「音の恐怖」を巧みに使った作品は他にないだろう。朝鮮王朝という静寂に包まれた時代に、突如として現れる異質な音の洪水。それが視聴者の心臓を鷲掴みにする。


Netflixドラマ『キングダム』のポスター。朝鮮時代の衣装を着た男性の顔が半分ゾンビ化している構図


静寂から始まる不協和音


朝鮮時代の夜は、現代とは比べ物にならないほど静かだったはずだ。電気もなく、車の音もない。その深い静寂の中で、最初のゾンビが立ち上がる瞬間の「骨が軋む音」は、まるで世界の秩序が崩れ始める合図のように響く。


特に印象的だったのは、シーズン1第3話での東萊府使の屋敷での場面。真夜中、静まり返った韓屋の中で、死んだはずの人間が突然動き出す。その時の関節が鳴る音、乾いた呼吸音、そして床板を引きずる音。これらが重なり合って作り出す不協和音は、視覚的な恐怖以上に背筋を凍らせた。


なぜ走る音がこんなに恐ろしいのか


『キングダム』のゾンビは走る。それも尋常じゃない速さで。数百体のゾンビが一斉に走り出す時の足音は、まるで軍隊の進撃のようだ。しかし軍隊と違うのは、その足音に統制がないこと。バラバラのリズムで、でも同じ方向に向かって突進してくる。


シーズン2で宮廷内にゾンビが侵入するシーン。石畳を叩く無数の足音が、まるで豪雨のように聞こえてくる。その音の迫力は、単純な視覚的恐怖を超えて、本能的な逃走欲求を掻き立てる。


呼吸音が語る生と死の境界


韓国式ゾンビの特徴として「速い」ことがよく挙げられるが、私が注目したいのは彼らの呼吸音だ。『キングダム』のゾンビは、走りながら獣のような荒い息をする。死んでいるはずなのに呼吸をする矛盾。その呼吸音は人間のそれとは明らかに違う。


アシンチョンで明かされた生死草の秘密を知った後、この呼吸音の意味がより深く感じられるようになった。彼らは完全に死んでいるわけではない。生と死の狭間で苦しんでいる。その苦痛が、あの異様な呼吸音となって表れているのだ。


沈黙こそが最大の恐怖


しかし『キングダム』で最も恐ろしいのは、音がない瞬間かもしれない。昼間、ゾンビたちが眠りについている時の不気味な静けさ。数百体の死体が折り重なって眠る光景に、音がまったくない。この静寂は、嵐の前の静けさのような不安を煽る。


シーズン1の終盤、主人公たちが昼間も活動するゾンビを発見する場面。それまでの「昼は安全」という唯一のルールが破られる瞬間、画面には何の音もない。その無音状態が、逆に観る者の心拍数を跳ね上げる。


伝統楽器が奏でる終末の調べ


『キングダム』の音楽も特筆すべきだ。韓国の伝統楽器であるカヤグムやテグムの音色が、西洋のホラー音楽とは違う独特の不安感を醸し出す。特に、ゾンビが迫ってくる場面で使われる打楽器のリズムは、まるで死者の行進曲のようだ。


これらの伝統的な音は、朝鮮時代という舞台設定と見事に調和しながら、同時に異質なゾンビの存在を際立たせる。まさに「なじみ深いものが恐ろしく変質する」という、ホラーの本質を音で表現している。


『キングダム』が世界的に評価される理由の一つは、この音の演出にある。韓国の静かな夜、伝統的な建築空間、そして突如として現れる異質な音の暴力。この音のコントラストこそが、他のゾンビ作品にはない独自の恐怖体験を生み出している。次にこの作品を観る時は、ぜひ音に注目してみてほしい。きっと新しい恐怖の扉が開かれるはずだ。


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